みんとの絵本箱

河原宿の大日如来さま

大日如来01


大日如来02
河原宿(かわらじゅく)の火の見やぐらのそばに、古びた小さな大日堂(だいにちどう)が建っています。
お堂の中には菊のご紋のついた高さ1メートルほどのお厨子がおかれていますが、お厨子のとびらには鍵がかけてあります。
それはやたらにお厨子の中をのぞいたり、持ち出したりしないようにとの言い伝えがあるからです。

このお厨子にはこんな話が伝わっています。



大日如来03
むかし、羽柴秀吉がときの天皇から豊臣の姓をいただき太政大臣(だじょうだいじん)になったとき、いっしょに大日如来像(だいにちにょらいぞう)をいただきました。
秀吉はこの大日如来像を自分の守り本尊とさだめ、ふかく信心していました。
そして小姓の中村弥四郎(なかむらやしろう)に守らせ、大切にしてきたのでした。



大日如来04
秀吉が亡くなり、やがて大坂城はいくさで炎につつまれ、落城してしまいます。

 このいくさの最中のことです。もえさかる火の中で弥四郎は、大切にお守りしてきた大日如来さまを燃やしてしまってなるものかと、必死になって城の外へはこびだそうとしていました。

いつもそばに仕える吉次郎(きちじろう)や おともの者たちも、けんめいに火の海をかいくぐっていました。



大日如来05
弥四郎たちは、やっとの思いで城をぬけ出すことができました。

   弥四郎   「なんとか大日さまを無事おすくいもうしたぞ」

   吉次郎   「あのはげしい火の中から、ようお救いしたものじゃ」

   弥四郎   「これも亡き秀吉さまのおかげだ」

   吉次郎   「さあ、大日さまをお守りして、どこか安全なところにまいりましょう」

   ともの者1  「安全なところといっても、どこへ行ったらよいものか」

弥四郎の頭には、相模(さがみ)の国の星谷寺(しょうこくじ)がうかんでいました。

   弥四郎   「そうだ、相模の星谷寺へ行こう。秀吉さまゆかりの寺だ」

星谷寺は小田原攻めのとき、秀吉が陣にした寺でした。

   吉次郎   「あそこなら、きっと助けてくださるに違いありません」

   ともの者2   「さ、一刻も早くまいりましょう」



大日如来06
この時代、いくさに敗れた者たちは、くまなくさがしだされ、捕らえられました。
弥四郎一行も大坂方と気づかれないように、身をやつしての旅をつづけなければなりません。
大日さまをおさめたお厨子をせおって、東をめざしたのでした。

   ともの者1   「ああ、重くてたまらぬ。ひもが肩にくいこんで血がにじんできた」
   ともの者2   「さあ、こんどは私が背負いましょう」

人目をさけての一行の旅は、それはそれはなんぎなものでした。
めったに人の通らぬけわしい峠をこえて、ある海辺を通ったときのことでした。



大日如来07
  吉次郎   「弥四郎さま、みな疲れきっております。大日さまはお守りせねば
         なりませぬが、このままでは相模の国までたどりつけるか心配です。」
  弥四郎   「そうだな、みなここまでよくがんばってくれた。しかし先はまだ遠い。
         ではこうしよう。大日さまの台座だけでもどこかへ置かせてもらうこと
         にしようか」

大日さまは蓮華座(れんげざ)という蓮(はす)の花の形をした台座の上にすわっていらっしゃいました。これだけでもかなりの重さです。

  吉次郎   「しかし置いていくといっても、いったいどこへ置けばいいものか」
  弥四郎   「そうだ!いい考えがある。さいわい海の近くだ、この海の中へ台座を
         しずめさせてもらうことにしよう。」

一行はしずめられた台座にむかい、どうかおゆるしくださいと手を合わせるのでした。



大日如来08
台座がなくなった大日さまの厨子を守って、一行はようやくのことで無事に相模の国・星谷寺にたどりつくことができました。
そして、ここ、座間・河原宿の地を開拓し、お堂をたてて、大日さまをおまつりしました。

  弥四郎   「大日さまもこれで一安心だ」
  吉次郎   「そうですが、たいせつな大日さまが盗まれるようなことがあってはなりませぬなぁ」
  弥四郎   「それでは、厨子の扉に鍵をかけるとしよう。そして厨子に手をかけたり
         すると必ずわざわいが起こると、皆にようく言い聞かせよう」

それ以後、この言い伝えはかたく守られてきました。開かずの扉の厨子をまつった大日堂を、河原宿の人々はずっとお守りしてきたのです。



大日如来09
時はうつり、第二次世界大戦が終わって、しばらくたった頃のこと。

   町の人1   「世の中も変わったことだし、どうだ、ここらあたりで一ぺん厨子の
           扉を開けて大日如来さまを拝んでみたいものだが」
   町の人2   「いやあ、それはどうかな。開けてなにか悪いことでもあったらどうする」
   町の人3   「まあその時はその時だ。ただお顔をおがみたいだけじゃよ」

人々はおそるおそるお厨子の扉をあけました。
するとどうでしょう!そこにはなんともやさしいお顔をした三十センチあまりの青銅の大日如来さまが坐っていらっしゃったのです。
台座のない大日さまは火に焼かれたように真っ黒なお姿でした。
人々は思わず目をつむり、手を合わせて拝みました。



大日如来10
その後再び厨子の扉には鍵がかけられ、現在でも河原宿の人々が大切にお守りしています。

(おわり)



このイラストは、ワンハートボイスさんのご依頼で描いたものです。
  1. 2011/10/03(月) 19:06:54|
  2. 民話・昔話・エッセイetc.

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