みんとの絵本箱

ごおうのひめでんせつ

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今からおよそ九百年も昔のことです。

春の彼岸もすぎたころ、鎌倉街道を北にむかって歩いていく若い女の人がおりました。
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旅すがたのその人は、たったひとりで、今にも赤ん坊が生まれそうな大きなおなかをしていました。

顔色はわるく、つかれきったようすでしたが、どことなく気品があり、みぶんのある人のように思われました。

女の人 「どこか、休ませてもらえる家などないものか」



やがて、少し先にわらぶき屋根の一軒やが見えてきました。

女の人 「やれうれしや、あそこの家にこよいのやどをおたのみしてみましょう。」
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日はもうくれかかっていました。

あかりをたよりにようやくその農家にたどりつくと
女の人 「すみませんが、今夜一晩、とめていただけませんでしょうか。」
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戸口に出てきたこの家の主人は女の人のすがたに、なにかきっとわけがあると思い、

おとう 「百姓やのせまいうちだけんど、おまえさん一人ぐらい、とまれる場所はある。さあさあ、あがって休みなせぇ。」

おかあ 「あれぇ、そのおなかしてどこからきたか知らねえが、はよううちさ入って入って」

ばあさま 「ほんになぁ、その身体でひとりたびはきのどくだぁ」

家中の者は、あたたかくむかえ入れたのでした。




ところが家の人たちの親切なことばに、はりつめていた力がぬけたのか、女の人はそこにたおれこんでしまいました。
おなかが急に強くいたみだしたのです。
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女の人 「まことに申しわけありませんが、赤ん坊が生まれそうです。どうかよろしく、おたのみ申します」

おとう 「いいともさ。ここで生まれるのも何かのえんだ」

ばあさま 「安心しなせえ、おらがついているだに」

おかぁ 「そうじゃ、だいじょうぶだ、心配せんでええよ。ばあさまとおらがついているからな。

と、ばあさまもおかあも、はげましました。

しかし、夜になっても赤ん坊はなかなか生まれません。

おかあ・おばあ 「さあ、がんばりなされ。もうひとがんばりだ」




ばあさまや、おかあにはげまされ、ようやく夜明け近くになって、男の子が生まれたのです。

女の人 「ありがとうございます。このご恩は、けっしてわすれません」

と、涙を流してよろこび、礼をいうのでした。
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それから女の人は、しばらく、その家のせわになりました。
なんでも夫が北のほうへ行ったので、それをたずねていく途中だということでした。




季節はうつり、梅雨のころになりました。

女の人 「長らくおせわになりました。わけあって名前を申すことはできませんが、夫のあとを追ってまいりたいのです。ぶじに、夫のもとにたどりつきましたら、いつかきっとお礼にまいります」

おとう 「えっ、なんと、まだ赤ん坊も小さい。旅をするのはむりだ」

ばあさま 「そうだよ、えんりょしねぇで、ゆっくりするがいいだ。

おかぁ 「ばあさまのいうとおりだ。おらんとこに気ぃつかわんでもいいんだよ」
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家の者たちがとめるのもきかずに、礼をいって、母となった人は赤ん坊をだいて、その家をあとにしたのでした。
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そこから一里ほど北の座間入谷(ざまいりや)に、坂東八番(ばんどうはちばん)の観音の霊場といわれる
星谷寺(しょうこくじ)がありました。

女の人 「この近くに、観音さまのお堂があると聞きました。おまいりさせてもらいましょう」
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あたりは薄暗くなり、雨が降りそうでした。

夫のぶじと、赤ん坊が元気に育つようにとお祈りして、観音堂を出た女の人は、日が暮れる前に少しでも先を急ごうと、うらてにまわると、小さな谷をはさんで山をこえるほそい道がありました。

谷には木の橋がかかっていましたが、木の枝や落ち葉がおおいかぶさり、橋板もくさってところどころに穴があいていました。
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近くの人々はその橋を「朽橋(くちばし)」とよんで、ここしばらくはだれも通っていませんでした。

しかし、そんなこととは知らずに、赤ん坊をだいて渡っていくと、落ち葉に足をすべらせ、よろめいたはずみに橋板がおれ、




「あ〜っ」

母子は谷のそこへと落ちてしまったのでした。
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二、三日して橋の近くを通りかかった村人が、赤ん坊をしっかりだいたまま、息のたえている女の人をみつけました。

村人1 「ありゃ!なんということじゃぁ。」

おどろいた村人のしらせでかけつけた人々は

村人2 「かわいそうなことをしたなぁ。」

村人3 「この橋は板がくさってきてあぶねえから、このごろはだれも渡らなかったもんなぁ。」

村人1 「赤ん坊をはなさなかったのは、りっぱな母親じゃぁ。」
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村人たちは、二人を谷をみおろす小高い場所に、てあつくほうむり、墓のしるしに、けやきの木をうえました。

村人2 「あの世でしあわせにな。」
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それから百年ちかい時が流れ、けやきは大きくりっぱな木に育ちました。

このころ、日範上人(にちはんしょうにん)というお坊さんが座間にきて、円教寺というお寺をひらきました。
上人は夢にあらわれた「ごおう」と名乗る若い女の人の霊をなぐさめようと、お経をあげ、供養しました。

そして、けやきの木のそばにお堂をたて「安産守護の護王姫大明神」としておまつりしました。

村人たちは、このお堂を「ごおうのひめさま」と呼んでしたしみ、地域のこどもたちが、元気にすこやかに育つように祈って、大切にお守りしてきたということです。



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参考文献   座間ばあちゃんの遠めがね  古市静子

神奈川 県央の民話・昔ばなし 朗読劇集 ワンハートボイス脚色編より


このイラストは、ワンハートボイスさんのご依頼で描いたものです。
  1. 2012/04/15(日) 19:34:00|
  2. 民話・昔話・エッセイetc.

《みんとの絵本箱》

「ちょっとのんびり おくつろぎの絵」(みんとふぁくとり〜)の別館です。

みんと

Author:みんと
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